アフリカビジネスに関する日本企業の関心度を測る指標として、弊社のような支援コンサルタントへの「お問い合わせ」の数がひとつの参考になる。具体的な数値をここで開示することはできないが、肌感覚として、昨年8月末に横浜で開催されたTICAD9(第9回アフリカ開発会議)の前後ではあまり変化はなかったものの、昨年11月くらいから今年の2月にかけて、「お問い合わせ」の数が急増した印象がある。しかしながら、3月になるとこの波は急速に静まり、最近のお問い合わせは微々たるものとなっている。そこで、お付き合いのある日本企業に色々とヒアリングしてみると、この原因が2026年2月28日に始まったイラン戦争であることは、どうやら間違いはなさそうである。先月のコラムでも取り上げたが、ご周知の通り、今回のイラン戦争が世界の貿易や海外ビジネスに及ぼした影響は多大であり、特に航空運賃や各種輸送費の急騰には目を見張るばかりである。恐らく、多くの日本企業の皆さまが、不要不急の中東、中東経由の出張や海外での新規事業の立ち上げを控えられているのではなかろうか。特にアフリカ市場に新たに取り組もうとされている日本企業の方であれば、遠く馴染みのないアフリカ大陸という市場での活動を一時様子見とするのは、至極当然の話である。このような今回の動きについては、実は数年前の出来事の「デジャヴ」を禁じ得ない。2020年2月頃から始まった新型コロナウィルスのパンデミックによるビジネスの停滞である。当時、私は2020年2月初旬から1カ月間の予定でケニアに出張していた。日本からケニアに向けて出国する時には、新型コロナウィルスが中国の武漢で猛威を振るっているとのニュースは出ていたものの、日本国内は至って平穏。国外出張についても、特に問題とはされておらず、アフリカにも自由に渡航ができていた。一方、当時は当時で、現在に似たような状況もあった。カタールがイランと親しいとして、サウジアラビアがカタールと断交、継続していたこと、2019年9月にイランがサウジアラビアの石油施設に大規模な攻撃を仕掛けたこと、更には2020年1月3日に米軍がイランのソレイマニ司令官を暗殺したことから、2020年の初めは米国・サウジアラビア-イラン・カタール間の緊張がピークに達していた。このため、多くのビジネスパーソンは中東経由の旅程を変更し、欧州への直行便を利用したほか(当時はロシアがウクライナに全面的な進行を行う前であり、まだロシア上空の航路が利用されていた)、アフリカへの渡航も欧州経由に変更するビジネスパーソンが多数を占めた。かくいう私もカタール経由からフランクフルト経由へとフライトを変更し、ケニアに渡航した。さて、話を元に戻すと、渡航時は難なくケニアに移動できたが、2020年3月初旬の帰国時には状況が一変、経由地のチューリッヒはもちろんのこと、成田空港も新型コロナウィルスに対する警戒態勢下にあった。その後、新型コロナウィルスが日本国内でも急速に感染を拡大し始め、ワクチンがある程度普及するまでは、国家間の移動がほぼ不可能な状態となった。この状態は2023年4月29日の水際対策全面解除まで続くわけであるが、この間でも国外への渡航ができなかったわけではない。アフリカビジネスの支援を生業とする弊社でも、ある日本企業のケニアビジネスの立ち上げ支援においては、通常は弊社のケニア法人の人材を活用し、市場調査や商談をリモートで行うと共に、必要に応じてケニアに渡航し、業務を行っていた。その結果、当初のケニア進出予定より大幅に遅れを取ることもなく、ほぼ計画通りにケニアビジネスを立ち上げることができた。また、多くの外国企業がケニアへのアプローチを停滞させたコロナ禍において、敢えて現地に渡航し、対話を継続した我々の決断は、結果として極めて大きな先行利益をもたらしている。窮地において示されたコミットメントは現地関係者との間に強固な信頼関係を醸成し、今なお「困難を分かち合った特別なパートナー」として、市場における優位性を担保し続けているのであろう。この事例のように、状況に応じた様々な工夫を行うことにより、世界中のほぼ全ての企業が国際的なビジネスを中断している中においても、何かしらの取り組みを継続することが、実は重要なのかも知れない。今回の件で言えば、例えば今のうちにリモートで市場調査等を行い、来るビジネスの正常化の日に備え、ビジネス戦略を練るのもひとつの方法であろう。既に世界でビジネスを展開されているのであれば、物流戦略を見直すひとつのきっかけとなるであろうし、ひいては最適な拠点戦略への見直しへとつながるのかも知れない。このような時期であるからこそ、これまで表出してこなかった様々なリスクが形となって現れている。これをチャンスと捉えて、将来のビジネス拡大に活かしていくのか、あるいはこれを予測できない大きなリスクと捉え、ビジネスを縮小、諦めてしまうのか、今、私たちはこれを問われているのかも知れない。(JCCP M株式会社 杉野)