8月もあとわずかを残すのみとなった。今年の日本の夏はどのような夏だったのだろうか。「相変わらずの酷暑だった」という声もあれば、「今年は比較的涼しかった」と感じる人もおり、今年の夏の評価は人によって分かれているようだ。筆者としては「今年は涼しかった(涼しくはないが、昨年までのような酷暑ではなかった)」と感じている。気になっていたのは、昨年終息した黒潮の大蛇行の影響である。日本の気候がかつての姿を取り戻すきっかけになるかと注視していたが、それが今回の夏にどう作用したかは確証がない。ただ、これを機に太平洋沿岸に魚が戻り、秋には美味しい秋刀魚が手頃な価格で食卓に並ぶことを密かに期待している。さて、世界的な気候のトレンドはどのようになっているのだろうか。昨年の秋頃から今年の初頭にかけて、世界はラニーニャ的な気候に見舞われていたが、今年の3月頃にはその状態も終わりを告げ、5月頃からはエルニーニョ現象へと突入した模様である。一般的に日本では、エルニーニョが夏に冷夏や長梅雨、冬に暖冬や小雪をもたらすのに対し、ラニーニャは夏に猛暑、冬に厳冬や豪雪をもたらすとされている。はたして最近の日本は、こうした「一般的な公式」通りに推移していると言えるのだろうか。今月13日に千葉で繰り返し発生した線状降水帯を原因とした豪雨も、エルニーニョ現象がもたらした影響のひとつと見ることができるだろうか。そうだとするならば、この豪雨による甚大な内水氾濫の被害は、こうした異常な気象現象の影響がいよいよ看過できない域に達していることを示している証なのかもしれない。では、こうしたエルニーニョやラニーニャといった気象現象は、アフリカにどのような影響をもたらしているのだろうか。まず、2020年後半から2023年初頭にかけて発生したラニーニャの影響を振り返ってみたい。この時期、東アフリカのケニア、ソマリア、エチオピアでは猛烈な干ばつに見舞われ、河川や井戸が干上がり、農業は壊滅的な状態に陥った。さらに900万頭以上の家畜が死滅し、とりわけソマリアでは数百万人が過酷な飢餓に直面するなど、深刻な人道危機へと発展した。これとは対照的に、南部アフリカの南アフリカやモザンビークなどでは、豪雨による洪水や大型サイクロンが頻発した。この甚大な被害をもたらしたラニーニャ現象が終息した後、2023年半ばから2024年にかけてエルニーニョ現象が発生した。この変化は、前回のラニーニャとは正反対の災禍を東アフリカにもたらすことになる。ケニア、ウガンダ、タンザニア、ソマリアなどでは猛烈な大雨が連日降り続き、広範囲で深刻な洪水被害をもたらした。中でも記憶に新しいのは、2023年10月から11月、および2024年3月から5月の2回にわたって東アフリカ各地を襲った大洪水である。特にケニアでの2回目の洪水では、全域で28万人以上が避難を余儀なくされた。首都ナイロビでも災害に脆弱なスラム街の住居が濁流に押し流されるなど、壊滅的な洪水被害が発生、主要道路や鉄道網も寸断され、一時は首都機能が完全に麻痺する事態に陥ったほどである。筆者自身、エルニーニョに転換した後の2023年10月から11月にかけて、ケニアを訪問する機会があった。この滞在中、モンバサ方面からナイロビへと戻る幹線道路沿いを通行中、ふと道路わきに目をやると、真っ赤な泥にまみれた1頭の野生の象に遭遇した。洪水から逃れ、水没を免れた比較的高台の幹線道路付近へと非難してきたのだろうか。ブッシュの低地には、いまだ水が引ききらないぬかるみが広がっているに違いない。過酷な気候の激変の現実と、それに立ち向かう野生動物の息遣いを感じ、思わず想いを馳せた瞬間であった。突如として幹線道路沿いに現れた泥まみれの真っ赤な象(2023年11月17日、モンバサ・ロードから筆者撮影)一方、同時期の南部アフリカに目を転じると、ザンビア、ジンバブエ、マラウイなどでは歴史的な大干ばつが発生していた。インド洋に注ぐ大河・ザンベジ川の中流に位置し、世界最大級の蓄水量を誇る人造湖「カリバ湖」も深刻な水不足に陥った。水力発電に使用できる「有効貯水容量」の割合は一時期10%未満にまで急低下し、湖での漁業に甚大な打撃を与えたばかりか、カリバ湖での発電への依存度の高いザンビアでは1日20時間を超える苛烈な停電を余儀なくされた。ザンベジ川といえば、2019年12月6日に英紙「The Sun」が報じたニュースが記憶に新しい(注1)。同紙は「南部アフリカを襲う壊滅的な旱魃により、同河川の中流にあるヴィクトリア滝(Victoria Falls)の水位が過去25年で最低となり、岩肌が露出するほど干上がってしまった」と鮮烈に伝えた。そして「地球温暖化をはじめとする人為的な気候変動が深刻な渇水を引き起こしている警鐘だ」とする専門家の言葉を紹介した(注2)。掲載された写真はあまりにもセンセーショナルであり、現地の気候特性や毎年の乾季の影響をめぐり、一部で論争を起こした。しかし、極端に大きく変動する気候がアフリカにもたらす影響の大きさ、そして社会やインフラの脆弱性を浮き彫りにした象徴的な事例であったことは間違いない。(注1)The Sun "CLIMATE CRISIS Shocking pictures show Victoria Falls dried up after devastating drought leaves it with lowest water level in 25 years" (December 6, 2019).通常のビクトリア滝の水量(出典は前掲の(注1)と同じ)2019年に英紙「The Sun」に掲載された旱魃により岩肌が露出したビクトリア滝(出典は前掲の(注1)と同じ)(注2)なお、この2019年の大旱魃は、エルニーニョの影響に加え、インド洋西部で発生した観測史上最大級の「正のインド洋ダイポール現象」が重なったことが主な要因と分析されている。このように、気候の年変動はアフリカの社会やインフラ、そして人々の暮らしに計り知れない影響を及ぼしている。しかもそれは、私たちが日本で直面する自然災害による影響の規模をはるかに超え、人々の生死に直結するような脅威にほかならない。では、なぜアフリカと日本ではこれほどまでに被害の差が生じるのだろうか。ひとことで言えば、社会全体の「インフラの強靭性(レジリエンス)」の違いである。もちろん、近年の国内における大規模地震や内水氾濫でも浮き彫りになったように、水道施設や排水設備などの脆弱性という点では、日本も他人事ではない。しかしアフリカの場合、社会を支えるあらゆるインフラが脆弱性を抱えており、ひとたび自然災害が起きれば、特に貧困層をはじめとする人々へ壊滅的な打撃を与えてしまうのが実情だ。もし日本が誇る強靭なインフラ技術やノウハウを適正な形で現地に導入できれば、アフリカの多くの人々を災害の脅威から守ることができるはずである。事実、そうした防災・減災やインフラ構築に資する優れた技術は日本国内に数多く存在し、それらを携えてアフリカでビジネスを展開する事業者も増えている。もし皆さまの中に「自社の優れた技術や製品をアフリカの地で試し、現地の防災や減災などの課題解決に貢献したい」とお考えの方がいらっしゃれば、ぜひ一度ご相談いただければと思う次第である。(JCCP M株式会社 杉野)